2006-09-13

シエラレオネのダイヤモンド/ストライキ

Good evening. 静かな雨の夜だね。

さて、きのう暗い話はやめようと言ったばかりなのに、今日もこんな話。ごめんね。


シエラレオネで違法タクシーの大規模な取締りが実施され、不適切なタイヤの使用、ライトの故障、無免許営業などを理由に100人におよぶ運転手が逮捕された。11日、運転手たちはこれに抗議してストライキを行い、その結果、首都は静まりかえった。(Exciteニュース/ロイター)


このニュースのポイントは、警察のやっていることがほとんど組織的な別件逮捕だということ。ちょっと大胆な言い方だけどね。じっさい、「不適切なタイヤの使用、ライトの故障」なんかで逮捕しているんだから。検挙じゃないよ。逮捕だよ。ライトの故障で牢屋に入れられるってことだ。この点は重要だね。でないと、職場とかで「自業自得だろw 」とか何とか的はずれなことを言って、インテリの同僚に冷たい目で笑われる、なんていう痛々しいことになりかねないよ。気をつけて。

閑話休題。この件のポイントは別件逮捕だってことだけど、そうすると、事はたんなる大規模な刑事事件ということでは済まなくなりそうだ。それぞれ独立した陣営同士の社会的対立とでも言った方がいい。そうなると、両者の言い分を確認しておかないといけないね。

警官はこう言っている。
「全部でおよそ90件のひき逃げがフリータウンの警察に通報されています。歩行者にぶつかるだけでなく、高速道路で国有建築にぶつかる運転手の例も報告されています」
違法タクシーをシエラレオネの慢性的な交通危険の原因とみなしているらしい。警官らしい、職務上の主張だね。

一方、ストライキを行った輸送ドライバー組合の主張はこう。
「警察は運転手たちが賄賂の支払いを拒否すると、こうしたやりかたに出るのです」
こちらは、警察の不正への抗議ということらしいね。

こういう状況を見るとき、ナイーヴな人は、「○○の方は××というつもりだから、ごまかしている/嘘をついている」という風に思いがちだ。そういう発想が高じていくと陰謀説というやつに行き着くんだろうけど、そこまで行かなくても主体を分けてものを考えることが簡単でない以上、こういう一面的なものの見方への誘惑はいつでも僕たちを襲う。

でも、残念ながら、それは見る人がそう思いたいだけで、事実はおおかた違う。多分、どちらもある程度までは本気で、言ったとおりのことを思っているし、一面の真実も突いている。ただし、すべては見えていない。事象をめぐる当事者としての欲望/感情が、視界を歪めるんだ。

警官には、多少強引なことをしてでも交通秩序を確立すべしという使命感=欲望がある。シエラレオネの交通秩序はヒドイ。それこそ、今すぐ何とかしなきゃと警官を焦らせるほどにね。そして、その焦りが、別件逮捕まがいの強引な捜査となって表れる。まあ、よくある話さ。

ところで、ドライバー側は、商売のことを考えている。彼らは、劣悪な労働条件のもと、ボロボロの車でボロボロの道を、乗客を満載して走らなければならない。すべてがいっぱいいっぱい。しかも給料は安く、社会保障もない。そういう過度のストレスと葛藤は、もちろん、勤務態度に反映される。つまり、ごまかしや手抜き、やっつけ仕事、等々。これもじつによくある話。

そういう人たちがぶつかりあうとどうなるか。当然、どちらの側にもフトドキ者はいるわけで、警察には賄賂を要求する者が、ドライバーには人を轢いて逃げる奴がいたりする。そして、そういう奴ほどインパクトがあるので、各陣営はフトドキ者に代表されることになってしまう。で、お互い相手のフトドキなイメージをあげつらい、批判する。結果、大衝突。それが今回の事件だ。……といっても、僕の勝手な推理だけど。

さて、いまフトドキ者の話をしたけど、こういう「フトドキ者」の話は、いわゆる途上国に関するニュースほど多く含まれているよね。警官がワイロを取るとか、商売人が法律を無視するとか、そういうのは最も陳腐な部類に入る話だろうね。要するに、綱紀粛正がなされていないってことなんだけど、どうしてだろう?なぜ、途上国では「フトドキ者」がちゃんと取り締まられていないのか?

簡単に言ってしまえば、「そこまでちゃんとやる余力がないから」ということになるだろうね。その国の「乱れ」は、貧困の、無力の証しってわけだ。ちゃんと社会政策をおこなってゆく財力や文化水準がこれらの国にあるなら、そもそももっと秩序があるはずだからね。

そして、貧困の原因は……。


シエラレオネはダイヤモンドの輸出国であるが、その大部分が密輸出される。南西部が最もダイヤモンドの埋葬量が多い地域である。その他ボーキサイトや金紅石の産出国でもある。農業では米、アブラヤシ、ラッカセイ、コーヒー、ココアなど。(Wikipediaより引用)


きのうは中南米の例を挙げたけど、アフリカ南西部にあるシエラレオネも似たような立場にある。というより、もっとひどい。この国は世界で最も平均寿命が短い国のひとつなんだ。その理由は、資源獲得競争を背景とした内戦と、そこに必然的に伴う隷属状況にある。

シエラレオネでは長年、内戦が行われてきた。その間この国では、僕らでいう小学生にあたるくらいの子供たちが反政府勢力に拉致されて少年兵や慰安婦(!)にされ、使い捨てられていたんだけど、内戦が終わったいまもその影響は深刻で、社会復帰できない子がたくさんいる。元慰安婦の少女なんか、生きるためそのまま売春婦になるしか仕方がない状況に追い込まれているんだ。そして、内戦とセットになっている構造的貧困は外貨不足に結びつき、違法な国際取引を誘発する。この国の場合、違法取引に供されるダイヤモンド鉱山でボロボロになるまで働かされる子供がいまでもたくさんいて、やはりしょっちゅう命を落としている。子供が極端にたくさん死んでいるんだから、この国の平均寿命が押し下げられるのも計算上当然というわけ。

カニエ・ウェストは、"Diamonds From Sierra Leone"のPVの冒頭部分で、こう言っている。


“We work in the diamond rivers...
from sunrise to sunset
under the watchful eyes of soldiers.
Every day we fear for our lives.
Some of us were enslaved by rebels
and forced to kill our own families for diamonds.
We are the children of the blood diamonds.
The blood diamonds...
The blood diamonds...”


いちいち訳さないし、昨日と同じことをくどくどと繰り返すつもりはないけど、一言だけ確認しておくなら、安価な資源を狙って彼らの内戦を焚きつけているのは、先進国だ。『EDEN』の14巻には、こういう台詞がある。


増え続ける人口を養う為に耕作地を広げ
豊かさを求め石油を掘り鉱山を掘り……
資源と土地をめぐる争いが続く

民族や人種間の憎悪の根底には資源と土地の奪い合いがある
資源が欲しい欧米はそれをコントロール出来ると信じ
時に焚き付け時に押さえ込み漁夫の利を得ようとした結果……

アフリカは多数の”失敗国家”を生んでしまった


いまやグローバルに拡がる世界資本主義という怪物が、かつての列強と植民地の関係を固定化し、富を際限なく前者に流入させる代わりにあらゆる「困った問題」を後者に輸出する。ポストコロニアルスタディーズあたりの定番の図式だけど、アフリカの場合、アメリカひとりを悪者にすればいいってわけではなく、問題は複雑だ。言ってみれば、さまざまな陣営の思惑が相互に不透明なまま摩擦を起こし、その結果貧困や付随する問題をこの大陸に流入させているというわけだね。

そして、もともと宗主国だった欧米はいまごろになってやっと問題に気付きはじめたわけだけれど、関係が複雑になりすぎた結果、手に負えなくなってしまった。アメリカなどの欧米先進国ではPKF活動や救貧ボランティアなどが活発なわけだけれど、これは実効性を狙った施策というよりは、搾取をうすうす自覚した人々の罪悪感のあらわれと言った方がよさそうだ。

それでも、罪の自覚が明確な分だけ、僕たちよりマシなのかも。なにしろ、善人にも悪人にもなりきれない僕たち日本人は、この罪を正視するには弱すぎるためか、二通りの反応しかできない。「まあかわいそう、なんとかしようよ」という、声だけ立派な偽善的態度。そして、「あいつらは勝手に無力なだけなんだ、知ったことか」という、不必要なほど勇ましい虚勢を張る偽悪的態度。大人ぶりたいお年頃のおませさんみたいだね。優等生タイプと不良タイプの違いこそあるけれど、根本的なところは変わらない。これは、シエラレオネの人たちとは違う、もうひとつの「弱さ」だ。せめて、「俺たちは血塗られたダイヤモンド(=富)を吸い上げて生きているんだ」と自分で認められる程度には、この弱さを鍛えて克服したいものだけれど。

……さて、夜も更けてきたね。シエラレオネのニュースを見たお陰で、またこういう話になってしまったよ。闇夜に暗い話をするのもそれなりに乙なものだけど、そろそろ寝ようか。

じゃあ、僕たちの弱さの克服を祈念して。 Good night.


◎参考:ダイアモンド〜第1・2・3・終幕〜/In My Mind
http://blog.alc.co.jp/d/2000790?theme=1

◎参考2:シエラレオネの現状報告/南山国際高等学校・中学校(2006.9.19リンク追加)
http://www.nanzan-kokusai.ed.jp/life/terada.html

◎参考3:ダイヤモンドが煽るアフリカの殺戮/田中宇(2006.9.19リンク追加)
http://tanakanews.com/A0203diamond.htm

(9月19日、新リンク追加に伴う若干の加筆をしました。)

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