2006-10-04

「1票格差5.13倍合憲」……?

毎度恒例の定数配分訴訟。今回は5.13倍に及ぶ一票の格差を巡って争われた。

◎1票格差5.13倍合憲、参院定数訴訟 - 東京/AFP通信
http://www.afpbb.com/article/953952

◎[参院選]「1票の格差」5.13倍は合憲 最高裁/livedoorニュース
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__2529868/detail?rd

これらのヘッドラインを見て、僕は思わず顔を顰めたよ。

「え?5.13倍の格差に合憲判断が出たってこと?事情判決の法理はどうしたんだよ?

この二つのヘッドライン、誰が読んでも5.13倍という格差そのものに合憲判断が出たと思わせるような文面だ。しかし、大学で憲法をマジメに勉強した諸氏ならすぐ疑うと思うけど、最高裁が5.13倍を合憲と明言してしまうとはちょっと考えにくい。まあ確かに、当件で争われたのは参議院議員選挙だし、参院に関しては格差に関する判断が比較的甘いから、(いつも通り)違法宣言をするとまでは(衆議院と違って)行かないだろうとは思った。ただ、事情判決の法理ってものがあるので、違法宣言が出たところで選挙そのものが無効になる可能性はどのみち低い。

なら、わざわざ格差の数値そのものを合憲と明言する必要はないわけだ。これまでどおり、「ま、望ましくない状態なのは確かなんですがね、参議院の選挙制度は一種独特なもんがありますし、数字だけで一概に違憲かどうか問題にするのは……」って感じで逃げておけばすむところ。にもかかわらず、上記事ヘッドラインには「1票格差5.13倍合憲」とはっきり書いてあったのだ。

おかしいなあと思っていたら、やっぱり違っていた。

◎参院定数訴訟:配分は合憲「1票格差」は是正を 最高裁/MSN毎日インタラクティブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061005k0000m040049000c.html

従来通りの立場じゃないですか、これ?前の選挙のあと格差の是正をしきれなかった政治部門に対してちょっともの分かりがよすぎるきらいがあるのはいつものことだし、あとは憲法の教科書にも書いてあるくらいの定番の論理構成。いま現在の格差は問題あるかもだけど選挙そのものがダメってわけじゃないよ、って。「配分は合憲」ってのは、要するにそういうこと。5.13倍が合憲ってわけではない。そっちに関しては判断を避けている。

とすると、「1票格差5.13倍合憲」ってのは、明らかにミスリーディングだ。法律を知らない人が記事を書いたんだろうね、きっと。


◎内容に関連した本1:P.114~116にこれまでの判例を通じた詳細な説明あり

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それにしても、livedoorニュースの記事、毎日の記事をソースにしてるっつーのに……。

(注意:夜半は法曹三者や法律学者等、法律に関する情報に職業的責任を持てる立場にある者ではありません。このエントリは一介のペダンチストが彼独自の理解に基づき、かなり大胆に戯画化して判決を評したものです。あまりマジにとらないようにしてください。)

◎内容に関連した本2:P.185~186に「事情判決の法理」に関するまとまった記述あり
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